今回は、「深い傷つきや絶望から抜け出すために大切なこと」について書いてみたいと思います。
夏の休暇を利用して、新潟のワイナリーにてツアーに参加したのですが、ツアーのガイドさんの言葉から、あるクライアントさんが辿った経過や変化のことが思い出され、それは、改めて私に勇気や力を感じさせてくれる経験になりました。今回は、そのことについてお話してみたいと思います。
ツアーに参加したこのワイナリーは、1992年に創業され、この30年をかけてこの土地にあった最適品種にようやくたどり着けたという、そんな歴史をもつワイナリーです。最初は水を引くところからも苦労があったそうですが、今では、9ヘクタールに20種類、2万7000本のぶどうが栽培されています。ツアーでは、このぶどう畑、精密に温度管理された醸造室、多くの樽が並ぶ樽熟成庫、3万本のワインが格納されているセラーなど、ワイン造りの中心となる場所を案内してもらいました。
最適な品種にたどり着くまでに30年を要したのは、この土地が、海岸に近いことから土壌が砂質であることや日本海側であることから湿気があることなど、この土地特有の風土や気候といった条件があったからだそうです。それらに合うものを試行錯誤を重ねながら見つけてこられたということでした。
30年前というと、自分の歳に置き換えると、私は、まだ20代。そんな頃から少しずつ畑を広げ、栽培数や生産本数を増やすことに尽力されてきたのかと思うと感慨深いものがありました。
また、ツアー中にガイドさんがおっしゃった言葉の中で印象に残ったものがありました。
それは、「ワインづくりに失敗というものはなく、いつも可能性を感じる作業である」というものでした。今年のぶどうは不出来かとか、味がよくないかと一見思えても、瓶熟成や樽熟成を経て、開けてみると思いもよらないよい味に変化していたということがあり、土地やぶどう、その醸造にいつも可能性を感じている、と。
私は、このようなワイナリーの歴史や、土地やぶどう、醸造の可能性の話を聞いて、あるクライアントさんのことを思い出しました。
その方は、親から十分な愛情がもらえず、深く傷つき、大人になってからも、親への許せない気持ちや、自身の中に渦巻く孤独感、無力感に苦しんだ方です。絶望から、死の淵を見るほどの苦しみも味わったともおっしゃっていました。
このような経験がある方だったのですが、自身と向き合っていく中で、この方の中にあった「自分がこんなつらい目に遭っているのは親のせいだ」という犠牲者意識が和らいでいき、この犠牲者意識から抜け出すことができるようになっていきました。
親がそのようなふるまいをしたのは自分のせいではなく、「相手の問題だったのだ」といったような、自分責めや自己否定をしない状態になり、つらく苦しんだ自分を許す気持ちも自然と出てくるようになったのです。
そして、こうした変化を経験された中で言われた言葉がありました。
それは、「私は私をあきらめなくて本当によかった」というものでした。この言葉は、「私は私自身と向き合うこと、またそれができる力をあきらめなくてよかった」と言い換えることができると思います。
小さな子どもにとって、自分が守られているか、愛されているかを感じることができるのは、親(養育者)や家庭の雰囲気からです。しかし、ニグレクトや虐待などによって、守られている感覚や、愛されている感覚を与えられない、愛が欠乏している状態のままだと、自分への認識や世界の見方に大きく影響を及ぼし、自分は愛されても良い存在なんだと思えず、自分でも自分を愛することができなくなったり、「世界や人は怖い」と思いこんでしまったりします。その状態は、大きなあきらめや絶望を感じさせることになるのです。
このように大きすぎるあきらめや絶望があると、それが蓋となって、その奥にある傷ついている気持ちを隠してしまい、そこにアクセスできないようにしてしまいます。そのため、自分が傷ついている部分を受け容れていくことができなくなってしまいます。本当の気持ちと自分とが、乖離したままの状態になるのです。
ですが、この方は、このあきらめや絶望があることを受け容れ、その奥にある傷ついた気持ちを見るようにされました。親を責めたり、自分を責めたりといった犠牲者の目線に留まるのではなく、親との関係の中で、実際どんな気持ちだったのか、どんなことを感じていたのかに目を向け、愛が欠落してしまった部分を受容し、満たしていくことをしていかれたのです。(具体的には、ネガティブな感情や感覚などをセラピーを使って解放していきました。)
それにより、親への憎しみが和らぎ、頭の中にフラッシュバックする親の言動が消え、誰からも奪われることのない本来の自分の力を見出し、穏やかな気持ちでいられるようになっていきました。
このように、ワイナリーツアーでのガイドさんの言葉から、土やぶどう、発酵の力を信じて、30年という年月、向き合ってきたワイナリーの姿勢と、どんなに絶望していたとしても、そんな自分自身の中にある力を信じてあきらめなかったクライアントさんの姿が重なりました。
そして、こうした姿勢やまなざしが、変化への可能性を開いていくのだと、改めて思い起こされ、私の中にも勇気や力が戻ってくる感覚を感じることができました。
深い傷つきからの絶望やあきらめがある時こそ、それらのさらに奥にある自分の中の愛を欲している部分に目を向け、声を聞き、癒していくことが、愛へと戻れる道すじであることを覚えておきたいですね。
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